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荷役・荷待ち2時間ルールって、「ウチの倉庫で2時間以内」でいい?
物流ジャーナリスト・キクタの連載コラム<あるある! 物流カン違い>物流分野に漂う12の勘違いを正す!
(2025.1.15)
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「<あるある! 物流カン違い> 物流分野に漂う12の勘違いを正す!」と題して、物流ジャーナリストである菊田氏が連載を執筆するオカベマーキングシステムの物流コラム。
第10回は「荷役・荷待ち2時間ルール」がテーマです。
◆「1運行当たり2時間以内」の意味
本コラムでたびたび言及している改正物流効率化法(新物効法)で、倉庫や工場・物流センターなど拠点での積み下ろしに要するトラックドライバーの拘束時間について、「1運行当たり2時間以内ルール」が明記されたことは、本コラム読者なら多くがご存じであろう。
ところが!である。本ルールについて、こんな風に思っておられたりしないだろうか?
「ほほう……ウチの倉庫で荷受け(または出荷)するとき、トラックごとに、荷待ちと荷役を計2時間以内にせよ、っちゅうことか…。なら、まだ頑張らんとあかんなあ…」
筆者が取材する限り、こんな反応が意外に、多いのだ。今でも。そこで年頭に取り上げることにした。いきなり恐縮ではあるが、この理解は原則として、『物流あるあるカン違い』である。
本法の具体的な施行(本項は25年4月に施行予定)内容を規定する省令案として24年11月27日に公表された、新物効法の施行に向けた「合同会議取りまとめ」(以下、「取りまとめ」と表記)を参照しよう。取りまとめP.4に、「トラックドライバーの運送・荷役等の効率化の推進の目標については、安全性の確保を前提に、荷主、物流事業者、施設管理者をはじめとする物流に関わる様々な関係者が協力して、以下の事項を達成することを目標とする。」として、図表1の項目が記載されている。
図表1 「合同会議取りまとめ」の2時間以内ルールに関する記述
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本項解読のポイントを確認しよう。
①[B]項にある「トラック1運行当たりの荷待ち・荷役作業等にかかる時間」とは、そのトラックが発荷主での荷積み(出荷)に際して要した時間と、道路を走って着荷主側の拠点に到着し、荷下ろし(入荷)に際して要した時間――これら、発着2拠点での所要時間の合計である。
②それが現状、「計約3時間」と推計されたことから、これを1時間削減([A]項)し、「計2時間以内となるよう荷待ち・荷役等時間を削減する必要がある」([B]項)と書いてある。
③ここからが肝心かなめのポイントだ。よって荷主等は[C]項の通り、「1回の受渡しごと」の荷待ち・荷役等時間につき、原則として「1時間以内」を目標にすべし、とある。「発着で2時間」とは、発で1時間、着で1時間。だから原則としては、あなたの拠点での受渡し1回あたりの荷待ち・荷役時間は、1時間以内を目指せ、と求められているのだ。
④ただし[C]の長い文章の後半に、「業界特性その他の事情によりやむを得ない場合を除き、2時間を超えないよう荷待ち・荷役等時間を短縮する」と続く部分は微妙である。文章の主語が「1回の受渡しごとの荷待ち・荷役等時間」だと素直に考えたら、「原則として1時間以内だが、ムリなら2時間以内でもよい」と読めてしまう。業界の反発に配慮したのか? 「1運行当たり=発着合わせて2時間以内」と[B]で明記しながら? それで「発着合わせて4時間」となってもいいのか? あいまいでは困る。霞が関文学を脱し、誤解を生まない表現で省令化されることを、当局に強く望みたい(本稿は「原則1時間」に即して書く)。
◆「発着合わせて2時間以内」を誰が証明するのか
本項の素案が示された時、筆者は「1運行当たり=発着合わせて荷待ち・荷役時間が2時間以内だったかどうか、誰がどうやって確認するというのか? ムリでしょ!」と反論した。今到着した運送会社のそのトラックが、数時間前の発荷主での荷積みの際に、どれだけ荷待ちし・荷役したのか、着荷主側の倉庫管理者が、荷受け開始前に、どう捕捉するのか?
確かに不可能とは言えない。運送会社が運行管理・作業進捗管理のシステムを導入していて、発荷主の拠点での作業実績データを持ち、それを着地の倉庫管理者(契約関係にない!)に、その場で即、データ共有してくれる場合がそうだ。それなら、「あ、このトラック、荷積みするとき荷待ち・荷役に70分もかけてるぞ。じゃウチではあと、50分しかない!」とか、判断できる。
あるいは、発荷主がバース予約システム等を導入し自社拠点での発着時間管理をしていて、各トラックの荷待ち・荷役時間も把握している、なおかつこのデータをトラックが着荷主拠点に到着するまでに、拠点管理者に共有してくれる場合である。
……だが実務者の皆さんなら容易に想像できる通り、これを全社に求めることは、現状では極めて難しい。仕組みがなければムチャクチャ手間がかかるので現実的ではない。
そこで本件の解釈を巡り筆者は、バース予約システムのトップベンダーの社長に取材してみた。発での作業実績を着側に提供することは可能か聞こうと思ったからだ。去年(24年) の夏のことである。彼から返ってきた答えは、「当社の認識は、(発着合わせて2時間、ではなく)発で2時間、着で2時間です」であった。また、「発・着それぞれで2時間を超えているところ沢山あるので、そこを2時間に短縮させていくのがファーストステップではないか」「実態にそぐわない法律は、ムダな規制と同じ」――との厳しい指摘も。その時点では筆者も「そうだよねえ…」と同調していたのである。
◆発で1時間、着で1時間…合せて2時間
ところが、さらに取材と調査を重ねるうち、政府の描く着地点がようやく見えてきた。結論を先に言えば、「(原則として)発荷主は頑張って荷待ち・荷役を1時間以内にする。着荷主も頑張って1時間以内にする。これにて発着合わせ<1運行当たり2時間以内>をクリアできるとみなす」というのが、本法施行の基本的考え方であるらしいのだ。
この理解で既に「1時間目標」を行動指針に記載している業界団体もある。日本加工食品卸協会では、『「物流の適正化・生産性向上に向けた荷主事業者・物流事業者の取組に関するガイドライン」対応の「加工食品業界製配販行動指針」』(FSP版 23年10月時点)において、「2時間以内ルールへの対応」の項にこう書いている。
(第1ステップ)発着荷主それぞれの拠点で恒常的に2時間以上の荷待ち・荷役作業時間が発生している場合は、発・着・物が連携して、時間短縮を図る
(第2ステップ)1時間以内を目指す
「1回の受渡しごとの荷待ち・荷役等時間」を、第1ステップで2時間以内に、第2ステップで1時間以内にすることを目指す、というのだ。同協会の時岡専務理事は筆者の取材に、「発側の時間は都度分からないので、着側で1時間以内を目指す運用にしました」と明かしてくれた。まことに現実的であり、政府の最終目標が「2時間以内」ではなく、「原則」とされた「1時間以内」にあるのだから実際、こうするほかないだろう。
こうして「1運行当たり=発着合わせて2時間以内」のルールは、「発着が互いに1時間以内を目指す」「これで発着合わせて2時間以内の目標を達成できる(はず)」という「みなし」で、施行される模様である。実際の発着所要時間データのリアルタイム共有・照合がムリな間は。
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* * * * *
最後に、決して忘れてならないのが、新法施行のそもそもの大目的=「ドライバー・運送会社の過重な負担を取り除き、労働環境をホワイト化しながら、供給力を確保し、物流危機を回避すること」である。そのためにこそ先の原則目標達成が必要なのであり、とにかく今すぐチャレンジを開始するしかない。この原点を踏み外すことなく、製配販の荷主と物流企業が連携し・尊重し合い、物流を持続可能にするための努力を鋭意、続けようではないか!
(参照文献)菊田、JBpress/Japan Innovation Review連載コラム・物流ミライ妄想館⑩、「『発着合わせて2時間』をどう証明? 改正物流効率化法で考える、荷待ち・荷役時間の誤解と正解」、https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/82812 。
(おしまい)
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