それってマジに、「物流DX」? 大変革=Xなきデジタル化は助走である

物流ジャーナリスト・キクタの連載コラム
<あるある! 物流カン違い>物流分野に漂う12の勘違いを正す!

「<あるある! 物流カン違い> 物流分野に漂う12の勘違いを正す!」と題して、物流ジャーナリストである菊田氏が連載を執筆するオカベマーキングシステムの物流コラム。

第5回は物流業界の「DX」がテーマです。

「DX」という語はもはやバズワード化し、本来の輝きを失ったのか。
「DX」はもう、死んでしまったのか?
……言葉の意味も確かめぬま「売らんかな」根性で、フツーのソフトウェアやデジタル機器を「これ買えば、DXできます!」とかアホなことを言って売りつけてきた輩の責任は重い。だが、そんな謡い文句に踊らされて懲り懲りし、「DXなんて空言だ!」と虚無派に転じたり、DXを軽んじたりするなら、それも本末転倒で、とても損なことだと私は思う。
私たちは今一度、原点に返るべきではないだろうか。まずはいったん、一部の無責任ICTベンダーやコンサルたちの勝手なDX解釈(なんでもDX)を捨て去ろう。世界基準の公式見解として今も有効だと私が考えるのは、経済産業省の「DXレポート2」(2020)の定義である。


<DX:Digital Transformationの定義 by経済産業省>
「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」


ここで押さえるべきポイントは、以下だと思う。私なりの解釈を加えて解説しよう。

①「顧客や社会のニーズを基に」と、取り組みの起点=DXの目的が記されていること

読み取りにくい表現ではあるが、「顧客or社会のニーズに応えること」がDXの「起点≒目的」と示されていることを再認識しよう。この目的を実現するための「手段」の1つとして、DXは構想され、起動する。「それーっ、DXだ!(何だか知らんけど)」と走り出し、いつの間にか目的を見失い、「DXが目的化」してしまう例が頻発したらしいので、一番に指摘しておく。

②DXの要件(1)……デジタル技術を活用し、製品やビジネスモデルを「変革する」こと

DXの中身として、2つの要件が記されている。1つは「データとデジタル技術を活用し、製品やサービス、ビジネスモデルを変革する」こと。そう、変革することが、「X」なのである。
そもそも、なぜ「X」1文字で「Transformation」と読むのか、ご存じだったろうか? 表音文字である英字アルファベットには珍しいことだが、「X」の字づらを「表意文字/象形文字」的にこう読むのだ……交差する2本の線分の、一方の「/」を「境界線」とみる。もう一方の線分は、右下方から左上方へ、この境界線「/」を越えて、「\」のように進む。限界を打ち破り、次元を乗り越え、姿かたちを変える。芋虫がさなぎに、そして美しい蝶へと変容(メタモルフォーゼ)するように…。
だからこの劇的な変化「Transformation」を「X」の形で表現するのである。私が主張するEX2(Employee eXperience Transformation:従業員体験の変革)も、GX(Green Transformation)も同じだ。
たとえば、単品賃貸していたビデオやCDという従来製品=「モノ」を、ストリーミング技術を活用したデジタルサブスクリプション「サービス」へと、革命的に進化させた近年の事例が典型的だ。いやしくもDXを名乗るなら、「デジタルベースの大変革」を伴うことが必須要件となる。

③DXの要件(2)……デジタル技術を活用し、組織、プロセス、企業文化・風土を変革する

変革すべき対象は、アウトプットとしての製品やサービス、それらを生む仕組みとしてのビジネスモデルにとどまらない。組織変革、プロセス変革、そして本質的な企業文化・風土変革にまで及ぶというのである。
これは、大ごとだ。もし根本的な企業組織と文化の変革にまで及ぶとすれば、それはDXの範疇にとどまらず、CX(Corporate Transformation、by冨山和彦)とも呼べる。冨山氏らの指導を受けたPanasonicが、「モノ売りビジネス」から「デジタルプラットフォームサービサー」へと、時間をかけたCXにチャレンジ中であるが、私は成果に期待している。
大ごとなだけに、小手先の業務改善や設備更新とは次元が違う。少なくとも中期経営計画マターとして社運をかけ、中長期的に取り組む課題となる。

④DXの要件(3)……以上により、競争上の優位性を確立すること

結果として、競争に打ち勝ち、業績・利益の向上に資すること。これが達成できなければ、DXの意味は半減する。たとえ①顧客や社会のニーズを満たす目的は達成できても、競争優位を確立できなければ持続可能ではないからだ。
――以上のように「DX」が企業経営にとって本質的な変革を志向するコンセプトである限り、その普遍的価値が棄損されることはない。DXは死んではいない。私はそう思う。

以上の定義に基づき、同じDXレポートに示された「DXの3層構造」も、DXを論ずる人なら理解しておくべきだろう。上に見た通りDXは奥深いチャレンジであり、一度に簡単に達成できるわけでなく、段階がある。レポートの元図に筆者が解説を加えたのが図表1である。

図表1 DXの3層構造図解(経産省DXレポート2の図に筆者加筆)
図表1 DXの3層構造(経産省DXレポート2の図に筆者加筆)

①デジタイゼーション

手書き伝票のアナログ情報をデジタルデータ化するなど、単発業務のデジタル化。現場のオペレーションレベルの変革で、通常は短期的タスクとなる。

②デジタライゼーション
ある業務の一連のプロセスにわたるデジタル化。物流分野で典型例となるのが、入荷・入庫から出庫・出荷に至る庫内業務プロセスをデジタル管理するWMS(倉庫管理システム)の導入だ。
倉庫全般などの部門マターで、戦術(タクティクス)レベルの短中期的課題となる。

③デジタルトランスフォーメーション(DX)
先の定義通りで、この段階になると完全に経営マターであり、中長期の戦略(ストラテジー)レベルの変革となる。また①②が社内に向けた「守りのDX」であるのに対し、③は社外・顧客に向けた「攻めのDX」となる。
ではデジタイゼーション、デジタライゼーションを単独でDXと呼べるのか? それなしにDXになり得ない前提条件、「助走」であるが、それだけで終わればDXとは言えまい。DX達成を目指すファーストステップ、セカンドステップ(DXレベル1/2等)と認識しておくべきだろう。

以上、経済産業省が示すDX像は、主に製造業やIT産業界を対象にイメージされているので、荷主企業の物流部門であればともかく、非荷主の物流業界にそのまま適用するには違和感があるかも知れない。その点、国土交通省は経済産業省の定義を踏まえつつも、業界の現実に即したこんな定義を、総合物流施策大綱(2021-2025)で示している。


<物流DXの定義 by国土交通省>
「機械化・デジタル化を通じて物流のこれまでのあり方を変革すること」
①既存のオペレーション改善・働き方改革を実現
②物流システムの規格化などを通じ物流産業のビジネスモデルそのものを革新
これらを物流におけるデジタル化・機械化・標準化で推進


かなり緩い記述である。それはよいとして、①オペ改善などは前記の経産省定義ではデジタイゼーション、デジタライゼーションであり、これもDXだと読めてしまう点は注意が必要だ。①はDXレベル1/2として区別し、②が本来の物流DX=レベル3、等と考えることを奨めたい。
では物流業界における「本物の物流DX」とは、どんな変革になるのか? 私がイメージする1つの例は、「運輸・倉庫の物理的事業の枠を超えた、多数の荷主と多数の物流事業者が連携する共同物流のプラットフォームサービス、その運営高度化に向けたコンサルティングサービス」などである。現実にこうしたビジネスへの展開を目指し取り組みを開始した企業もあるのだ。
逆に、範囲を企業経営全体から現場に限定し、「物流センターDX」等、デジタル・ロボット技術を活用して現場のあり方を大変革する意味で使用することは可能で、私も採用している。

ここで1つ、重要ポイントを補足しておく。国交省のDX定義には、経産省定義より優れた点もある。「オペレーション改善・働き方改革」を狙いに挙げていることだ。これを強調し、私はEX=従業員体験の変革を、顧客体験=CX(Customer eXperience)の変革と並置し、「DXによる体験変革の2大目的」として織り込むべきだと考える。むろんデジタル化・機械化によって省力化・自動化を進め、物流生産性と利益を向上することが物流DXの直接の目標になる。しかしその結果として、CX/EXの改善・変革が期待されることもまた、明らかだろう。
さらに言えば、今夏も危機的水域に突入中の地球温暖化を食い止めるためのGX(グリーントランスフォーメーション)も、デジタル化によって大いに推進せねばならない。今ビジネスモデルや企業変革を考えるなら不可欠な視点になるはずで、以上まとめて私はこう結論したい。

<DXの目的は、生産性・利益の向上、そしてCX・EX変革とGXである!>

最後に本コラムのミッションに立ち戻ろう。バズワード化の過程で世の中に誤解・珍解がはびこっていくのを私は憂え、DX講演の機会をとらえては、こんな形で警鐘を鳴らしてきた。以下はそんな「DXあるあるカン違い」の例である。

こんな発言を皆さんも耳にしたり、口にしたりしたことはないだろうか? もちろん社長に限らないけれど、「概念をカン違いしたまま物事を進める」ことは、徒労に終わる危険がある。日本の物流の健全な進化発展のため、少しでも役立てていただければと願うばかりである。
                                                    (おしまい)


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