「物流統括管理者」って…「CLO」なの?~物流とロジスティクスを混同してはいないか~

物流ジャーナリスト・キクタの連載コラム
<あるある! 物流カン違い>物流分野に漂う12の勘違いを正す!

「<あるある! 物流カン違い> 物流分野に漂う12の勘違いを正す!」と題して、物流ジャーナリストである菊田氏が連載を執筆するオカベマーキングシステムの物流コラム。

第4回は新・物流2法で話題の「物流統括管理者」と「CLO」がテーマです。

「物流危機が来る!」――独立し物流ジャーナリストとしての活動を始めてまる4年、私はもう何度、このフレーズを繰り返してきたことだろう。現実には、コロナ明けにも物流需要全体ではコロナ前の水準になかなか回復せず、昨年度まで需給が緩んだままだった(オオカミは来なかった)ので、「オオカミ親父」とか陰口を叩かれていたのかもと思う(知らんけど)。

だが、そのオオカミはいよいよやって来る。我が国政府はこの間に、危機感の醸成に成功した。今や物流関係者なら誰もが知る「物流2024年問題」のキャッチーなフレーズと、「2030年に輸送能力の19.5%(5.4億トン)が/2050年には34.1%(9.4億トン)が不足する」との数値予測が効いたのである。このままでは貨物の2割が、3割が、運べなくなる――政府はこの認識を、「持続可能な物流の実現に向けた検討会」等の場で主要産業界に浸透させていく。ついで「我が国の物流の革新に関する関係閣僚会議」で物流革新政策パッケージを練り上げ、2024年2月、物流関連2法の改正を閣議決定、同5月に公布した。新・物流2法と呼ばれる「流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律(物流総合効率化法/物効法)」と「貨物自動車運送事業法」である。

その最大の特徴は、荷主と物流事業者の双方に対し、物流効率化への取り組みを「義務」と定め、罰則までを法制化した点にある。詳述する暇はないが、荷待ち・荷役時間の短縮(1運行あたり2時間以下ルール)など効率化計画の作成・報告義務づけ、1運行ごとの貨物量増加、多重下請け構造の是正に向け元請業者に実運送体制管理簿の作成義務付け……等々。旧・物流2法が新自由主義的規制緩和・競争原理の導入で、野放図な運賃たたき合いを招来し、運送業界を荒廃させたことを真摯に反省したのかどうかは知らないが、それらと真逆の社会主義的とさえみえる規制強化、統制施策に180度転じた。物流の持続可能化を祈り、行動している私はその英断を基本的に支持する。

さて今回俎上に載せる「カン違い?」のテーマは、この改正物効法で特定荷主に義務づけられた「役員クラスの物流統括管理者の選任」を巡り、いま議論になっている、「物流統括管理者は<CLO>なのか?」である。まずは当該条文をそのまま引いておこう。

高く評価できる施策である。対象となる統括業務を大づかみに挙げたうえで、被選任者に「事業運営上の重要な決定に参画する管理的地位にある者」との要件を求めた点が大きい。常識的には経営会議に参画し、社の意志決定を左右できる「役員クラス」、少なくとも「執行役員」以上かとイメージされる。ここまではよい。

いま巷で議論を呼んでいるのは、条文にはない「物流統括管理者(CLO)」という文言が政府発の関連文書に記載され、流布していることだ。ご存じと思うがCLOとは、Chief Logistics Officer、最高ロジスティクス責任者のこと。素直に読めば「物流統括管理者=CLO」と、両者が等置されているようにみえる。事実つい最近、わが国を代表するロジスティクス団体のセミナーで、一連の革新政策作りを牽引した経産省担当幹部(当時)がこの表記を堂々掲げてプレゼンを行い、団体理事が「物流統括管理者はCLOか?――CLOである」との見解を示した。他にも同認識でのウェビナーは引きも切らない。
それでいいのか? 私には疑問がある。そこで、こう言っては強い表現になるが今回、<カン違いかも知れない事例>として取り上げることにした。

その理由は第一に、「物流」と「ロジスティクス」は次元の異なる概念であるのに、それを混同する解釈になるからだ。「物流」のJIS定義は前回コラムでも取り上げたが、「包装、輸送、保管、荷役、流通加工とそれらに関連する情報の諸機能を総合的に管理する活動」である。対して「ロジスティクス」のJIS定義は、「物流の諸機能を高度化し、調達、生産、販売、回収などの分野を統合して、需要と供給の適正化をはかるとともに、顧客満足を向上させ、あわせて環境保全及び安全対策をはじめ社会的課題への対応をめざす戦略的な経営管理」である。
「物流」の使命は6つの機能を個々に高度化しつつ、各機能の連携で物流の総合パフォーマンスを高めること。物流現場オペレーションの課題解決・最適化がそのリーダーの役割である。

一方「ロジスティクス」の使命は、その物流と、調達、生産、販売、回収等の機能を統合することで、需給適正化、顧客満足、社会課題への対応を進めること。戦術・戦略の経営管理マターである。「実行:オペレーション/戦術:タクティクス/戦略:ストラテジー」の階層区別は戦略論の常識であり、両者の機能階層が違い、範囲が異なるのは明らかだ。さらにこれらの上位階層には企業間連携戦略を含む供給連鎖管理=サプライチェーン・マジメント(SCM)が位置する。

上位階層(たとえば戦略)のミスを、下層(たとえばオペレーション)の働きで覆すことは、決してできない。昭和の日米開戦決定という致命的戦略ミス・政治的ミスを、オペレーション最前線のゼロ戦撃墜王が敵機を何度撃ち落としたとて、挽回できはしない。次元が違うからだ。

改正法の規定に戻る。特定荷主の物流統括管理者に求められる主業務を、付帯文書等で補って若干かみ砕くと、①荷待・荷役時間の削減、②積載率の向上、③運転者への負荷軽減、④車両の過度の集中の是正、⑤中期計画策定・管理体制整備ほか――となる。基本的には「物流の諸機能高度化」の範疇だが、真因を辿ると物流部門内だけでは完結せず、製造・販売など社内他部門との連携や、発着荷主・物流事業者など社外との連携・調整が必要になることがある。

だから他部門と対等に渡り合い、社としての意志決定を踏まえ他社とも交渉できる「役員クラス」の選任を義務づけた。内外との調整・交渉が重要な役割になることを、先の経産省幹部は「外交責任者」と表現していた。ただの「物流部長」ではなく、経営チームの一員でなければその実効性が担保できないのは確かである。

より具体的な業務内容は、今後の議論を経て省令で規定される模様だが、去る6月2日の合同会議資料「改正物流効率化法に基づく基本方針、判断基準、指定基準等について」では、「物流統括管理者(CLO)の業務内容について」の1項を設け、検討の視点として「社内の関係部門(物流・調達・販売等)間の連携体制の構築」とあわせ、「物資の保管・輸送の最適化に向けた物流効率化のための関係事業者との調整」を含めてはどうか、との案が出されている。上の解釈を強めて具体化したものだが、もしこれが明文化されれば、物流とロジスティクスの境目がさらに見えなくなってくる。これは核心的な論点なので、最後の結論部で改めて考察しよう。

私が「物流統括管理者≠CLO」を主張する根拠がもう1つある。前記「ロジスティクス」のJIS定義で活動目的の筆頭に挙げられている、「需給適正化」が物流統括管理者の業務に含まれていないことだ。そもそも本法全体に「需給適正化」「在庫最適化」の概念が抜け落ちている。

今回の法改正はドライバー供給不足対策としてスタートしたものだから、それも仕方ないということか。しかし現時点で、本法のいう物流統括管理者は「ロジスティクスの最重要ミッションである受給適正化を任務に持たない」。それが最高ロジスティクス責任者と言えるのか?

だから私はこの点、「物流統括管理者はCLOへの第一ステップ」とする、セイノー情報サービス・早川典雄参与の主張(同社「物流ITソリューションセミナー46」資料より)に賛同する。

「物流統括管理者≠CLO」を主張する識者は他にもあり、世にしっかり意見表明されている。その1人が湯浅コンサルティングの湯浅和夫代表で、月刊ロジスティクス・ビジネス(ライノス・パブリケーションズ)7月号連載「湯浅和夫のコンサル道場」において、こんな図式で「物流管理の発展段階」を説明しておられる。

「CLOは重要な役職であり、その普及に努めるのは決して悪いことではない。ただし、物流統括管理者を強引にCLOに置き換えようとするのは止めた方がいい」
「物流統括管理者には、ドライバーの荷待ち・荷役時間の削減と積載効率の向上という難問が控えている。(中略)いまはCLOなど持ち出さず、物流統括管理者を真正面から支援すべき」
――というのが本連載に登場する「大先生」の主張である。上図では私の意見と軌を一にし、ロジスティクスの至上命題である「需給適正化」「在庫管理」レベルこそが、物流発展のバロメーターだとされている。ちなみに本図は、同氏の90年代後半の講演資料であるそうだ。

残る問題である。先述の月刊ロジスティクス・ビジネス7月号の特集テーマは奇しくも「物流統括管理者」で、経産省や関連団体、先進企業のリーダーが多数登場している。そこに気になる発言があった。前記と同じ経産省担当幹部(当時)が、こう語っているのだ(ただし同氏は初めから「物流統括管理者=CLO」を自明のこととしているので、途中から主語が「物流統括管理者」ではなく「CLO」になってしまい、これで「物流統括管理者」を語ったことになっている)。

「…(CLOは)製造部門に対しても、輸送効率を上げるために製品設計を変えてほしい、と依頼ができるのは、役員クラスであるCLOなればこそ、です」
これは常々私も主張しているデザイン・フォー・ロジスティクス(DFL、ロジスティクス最適化のための設計)の考え方であり、完全にロジスティクス・マターである。先の用語定義にこだわれば、物流マターではない。
ということは? ……物流の名の下で統括管理者を、物流を越えて機能させようとの含意が、はなから織り込み済みであったのか? わが国の物流の持続可能化に向けて荷主の物流進化・高度化を後押しするためには、もとよりCLOの設置促進が望ましい。だが法的継続性の制約など(知らんけど)から一足飛びの「CLO条文化」は避け、だが実質的には「CLO」を想定し、JIS定義上に矛盾が生じることを恐れず(気にせず)、定着済みの用語「物流」を冠し受け入れられやすい「物流統括管理者」の語をあてた……とか? 「物流管理者」ではなく「統括管理者」なのだから、物流を越えた役割を与えても矛盾しない、との判断なのか?

私もCLOの設置拡大には大賛成である。でなければ日本産業界の国際競争力は、新興国にも次々、追い抜かれてしまうことだろう。「物流からロジスティクスへの進化発展」ももちろん、マストである。だがそれでも、「物流統括管理者(CLO)」はいただけない。「物流=ロジスティクス」と言っているように読めるからだ。物流ジャーナリストである私は、物流用語の語法の混乱を体で阻止する社会的使命を帯びている。

サプライチェーン・ロジスティクス戦略のミス(製配販不連携、ネットワーク設計不備とか)を、物流オペレーション(がんばって運ぶ)で100%挽回することは、できない。次元が違うからだ。

ウクライナの国土を死守するため、砲弾降り注ぐ戦場で命を懸け闘う作戦実行(オペレーション)部隊の現場指揮官と、本部オフィスで兵站=文字通りのロジスティクス戦略を懸命に練るオフィサーの、両役職がイコール=で結ばれたとしたら、あなたは違和感を覚えないだろうか?
                                                    (おしまい)


【Androidでドライバーの業務管理をDX化】
オカベマーキングシステムではドライバーの業務管理を円滑にする
業務用スマートフォン・タブレットなどのAndroidデバイスを販売しています。

ページ上部へ戻る