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物流SDGsはオワコンじゃない 持続可能な物流への達成目標もいっぱい!
物流ジャーナリスト・キクタの連載コラム
<あるある! 物流カン違い>物流分野に漂う12の勘違いを正す!
「<あるある! 物流カン違い> 物流分野に漂う12の勘違いを正す!」と題して、物流ジャーナリストである菊田氏が連載を執筆するオカベマーキングシステムの物流コラム。
第6回は物流業界の「SDGs」がテーマです。
◆続発する巨大事象の陰に霞んだか
「SDGs? あ~、そんな話、何年か前にしてたけどねえ……?」
なんて声が、あちこちから聞こえてくるような気がして、私は気が気でない。2020年以来このかた、コロナパンデミック、戦乱・紛争、サプライチェーン混乱、超円安ほかの経済問題、国内の自然災害……休みなく発生し続けた巨大事象の陰で、明らかにSDGsへの注目度が落ちているからだ。
「物流SDGs? もーオワった話じゃん?」
などと思っている、そこのあなた! 私はあなたに呼びかけている。
……とんでもない! 物流SDGsは今も超重大テーマであり続けている。たとえば、、、
「ドライバーも現場作業者も足りない! このままじゃ運んでもらえなくなる!」
つまり「日本の物流は持続可能でない、何とかしなければ!」という危機感は、かなりの高まりを見せている。「物流2024年問題」という政府のキャッチーな訴えが功を奏したせいもある。実はこの、「日本の物流を持続可能にする」ためにも、<持続可能なSustainable/開発Development/目標Goals=SDGs>は、達成しなければならない課題だらけなのである。
「なぜ今もしつこく、物流SDGsなのか?」
皆さんが社会的課題に鈍感な上司を説得するネタとしても使えるよう、ここでその理由を改めてまとめておきたい。
◆SDGsの17ゴールとウェディングケーキ
SDGsは2015年9月に開催された「国連 持続可能な開発に関するサミット」において参加国の全会一致で採択され、目標達成に向けた取り組みが開始された。具体的な目標=ゴールは以下の17項目あり、その達成へのKPIとなる具体的なターゲットは169もある。この目標は2030年までに達成することを目指しており、「誰一人として取り残されることなく、お互いに手を差し伸べ合い、尊重し合うこと」を原則としている。
<SDGs/17のゴール>
①貧困をなくそう ②飢餓をゼロに ③すべての人に健康と福祉を ④質の高い教育をみんなに ⑤ジェンダー平等を実現しよう ⑥安全な水とトイレを世界中に ⑦エネルギーをみんなに そしてクリーンに ⑧働きがいも経済成長も ⑨産業と技術革新の基盤をつくろう ⑩人や国の不平等をなくそう ⑪住み続けられるまちづくりを ⑫つくる責任 つかう責任 ⑬気候変動に具体的な対策を ⑭海の豊かさを守ろう ⑮陸の豊かさも守ろう ⑯平和と公正をすべての人に ⑰パートナーシップで目標を達成しよう
コロナ禍以前は、日本におけるSDGsの認知度は世界トップクラスとまで言われていた。それが15年間の折り返し点となる昨年、「このままでは8割方の目標達成が危うい」との分析がなされた時は、世論もマスコミも大して反応しなくなっていた。それではダメなのだ。これからいよいよ、あと7年で遅れを挽回して完遂を目指すべき、正念場に私たちはいる。
さて、上の17のゴールを対象分野で分別すると――
<1>物流や働く人の環境を含む、足元の具体的な「経済」を対象にしたSDGs⑧⑨⑩⑫
<2>その経済がよって立つ「社会」全体を持続可能にするSDGs①②③④⑤⑦⑪⑯
<3>その社会全体の存立基盤である母なる地球の「環境」を守るSDGs⑥⑬⑭⑮
――という具合に3層に整理できる。人類社会の生活が平穏に持続できるためには、もちろん足元の経済(物流を含む産業と働く人の環境)が穏やかでなければならない。けれどそのためには、産業経済がよって立つ「社会」そのものが平穏でなければならない。さらにはこれら全ての基盤となる大地・海・空という「地球環境」を守れなければ、私たちの平穏な産業社会の持続可能性はない。これらを範囲の広さで区分しケーキのように積層して示した図は、SDGsウェディングケーキと呼ばれる(図表1)。
経済と社会と地球環境は、私たちにとっての「世界のすべて」である(宇宙空間は除く)。それを未来にわたって持続可能にするために、必要な達成目標を集積したSDGsは、私たちが他の何を置いても最優先すべき「最高位目標」であるはずだ。だから企業でも家庭でも政府でも、誰かが何かを意志決定するとき、「その決定はSDGs達成に貢献するのか?」を常時、判断基準に置くべきなのだ。私はそう確信し、「物流でSDGs達成に貢献しよう!」と叫び続けている。
◆物流の持続可能性確保に直結するSDGs
人類社会を対象とするSDGsのどれもが、最終的には物流の持続可能性に影響を与えるのは当然だが、中でも直結するゴールがいくつもある。ここでは以下数点に絞って説明する。
<SDGs⑧働きがいも経済成長も>
SDGs8は、人々の暮らしを豊かにするための経済成長や雇用を推進する目標。「すべての人々のための包摂的かつ持続可能な経済成長、雇用およびディーセント・ワークを推進する」と明記されている。「ディーセント・ワーク」とは、「働きがいのある人間らしい仕事」を意味する。
私はこれをキーワードに「物流で働く人を守れ→物流(という仕事)をディーセント・ワークに」と主張してきた。それには誇りを持って働ける賃金と労働環境の整備が必要で、この点では「SDGs①貧困をなくそう」「SDGs⑩人や国の不平等をなくそう」も途上国だけの問題ではなく、虐げられたドライバーや非正規雇用者の待遇改善という意味で、わが国物流分野の改革に直結する。また自動化・省力化で3K克服、心理的安全性の確保でエンゲージメント向上……等々の具体的手段がいくつもある。
その詳説は別の機会に譲るが、これらに真剣な対策を取らない限り、働く人は物流という仕事に魅力を感じず、離れていってしまう。生産年齢人口が急減するこの四半世紀、働く人にそっぽを向かれたらドライバーも現場作業者も集まらず、「運べない」「入出荷する人がいない」時代が本当にやってくる。私たちは何としてもSDGs8を達成し、この危機を回避せねばならない。
<SDGs⑦エネルギーをみんなに そしてクリーンに>
<SDGs⑬気候変動に具体的な対策を>
エネルギー問題はまさに、物流と地球環境の持続可能性に直結する課題である。国内で物流(運輸・倉庫)部門の排出するCO2の量は、全体の約2割に達する。大変な比率である。そして現在音を立てて進行中の気候変動・地球温暖化、いや沸騰化が、このCO2によって加速されている。昨年に続くこの夏の異常な暑さは本当に、「もう地球、ヤバいぜ!」の強烈なアラームであったのだ。
ひと言だけ因果関係を説明すると、地球温暖化の主要因は温室効果ガスによる温室効果であり、中でも突出して寿命の長い(数百年とも言われる)CO2の排出量増加が最大の原因となっている。その暴走を食い止め、地球環境を平穏に維持するために不可欠な目標として、「産業革命期からの平均気温上昇を1.5℃以内に」とどめることで世界が合意した。その達成に必要なCO2排出抑制量も科学的に計算されていて、IPCCによれば数年内にCO2排出量を劇的に抑制しない限り残された「炭素予算」は使い果たされ、「1.5℃目標」は達成不可になってしまうという。去年の地球の平均気温上昇幅は既に、「1.5℃」を越えている。
なぜ「1.5℃以下」なのかというと、この「ティッピングポイント」を越えたら、気候は二度と元に戻れない破壊的な変動サイクルに突入してしまう可能性があるからだ。このままでは今世紀末には海面が1-2m上昇し、大雨・台風・洪水等の被害はさらに激甚化し、平穏な気候と地球環境が永遠に失われる可能性がある*1。何としても食い止めなければならない。
だからトラック車両や船舶ほかの内燃機関での、化石資源の燃焼によって排出されるCO2(Scope1)と、消費電力の発電時に排出されるCO2(Scope2)を、可及的速やかに削減し、カーボンニュートラルではなく、「カーボンゼロ化」しなければならない。再エネ電力の爆速拡大、EV/FCEV/バッテリー技術開発、共同化など積載率向上策……物流SDGsの達成手段は相当に準備が整ってきた。全部の駒が揃うのを待つのではなく、今すぐ・できることから・すべて、やらねばならない。でなければ間に合わない。私たちは可愛い孫・ひ孫の世代に、「荒廃した地球」という最低の置き土産を遺し、逝くことになる。そんな無責任な生きざまがあるものか!? 断じて許されないことだと、私は思う。
だから、SDGsはオワコン、なんかじゃあない。今現在、息をして食べて生活する私たち、物流サービスのお陰で日々、欲しいものを手に入れて消費できる私たちの日常を、持続可能にしたいと思うなら、この7年。それぞれが置かれた立場で、本気になってSDGs/物流SDGsの達成に挑むことが、世界市民の義務、物流に係る私たちの責務であると私は思う。
(参照文献*1)Japan Innovation Review菊田コラム<物流ミライ妄想館>、「炭素予算が底をつく─全産業の物流部門が直視すべき地球の危機/地球の沸騰を防げ! できることを今すぐ、すべてやるべき3つの理由(その①)https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/79229
(おしまい)
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