「荷役」って…なんて読むの?〜その読み方に潜む?〈物流軽視〉の感覚〜

物流ジャーナリスト・キクタの連載コラム
<あるある! 物流カン違い>物流分野に漂う12の勘違いを正す!

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「<あるある! 物流カン違い> 物流分野に漂う12の勘違いを正す!」と題して、物流ジャーナリストである菊田氏が連載を執筆するオカベマーキングシステムのメルマガコラム。

第3回は物流を支えるドライバーや現場作業者がになっている「荷役」がテーマです。

◆あなたは「荷役」という語を、どう読んでいるだろうか? 
……えっ? 「にえき」?

……そう読んでる人、ちょっとヤバい(すごい、カッコいいと言う意味じゃく、逆)かも?

今回は重要語の「読み方」にまでこだわり、その心の闇に潜む深層意識へと食い込んでみたい。

◆「荷役」 読み方の定義とは

公式見解としては、日本産業規格「JIS Z 0111 物流用語」にはっきり定義されている。「物流用語」のトップはもちろん「物流」で、「物流とは、物資を供給者から需要者へ、時間的と空間的に移動する過程の活動。一般的には、包装、輸送、保管、荷役、流通加工とそれらに関連する情報の諸機能を総合的に管理する活動。…」とされている。
なのでa)物流一般の用語に続いて、b)包装・貨物、c)輸送、d)保管、e)荷役、f)流通加工、g)情報、と全7項目にわたって基本用語の意味が説明されている。
さて、「e)荷役」の項目トップが「荷役」である。そこにはのっけから問答無用で、荷役(にやく)とカッコ書きで、読み方が明示されているのだ。ちなみにその説明は、「荷役物流過程における物資の積卸し、運搬、積付け、ピッキング、仕分け、荷ぞろえなどの作業とこれに付随する作業。マテリアルハンドリングともいう」とあり、対照英語として「materials handling」が付記されている。

だから、「荷役」は「にやく」と読む。「にえき」と読んではいけない。
「にえき」と読むのは、残念だが、まさに本邦の「あるあるカン違い」なのである。だがなぜ私は、そんな読み方一つにウルさくこだわるのか? 理由があるのだ。

「荷役」 の読み方にこだわるワケ

誰でもすぐ使える「コトバンク」で、デジタル大辞泉の詳しい字義解説が見られる。そこで「役」の意味・読み・例文・類語…を引いてみた。思った通り、〈ヤク〉と〈エキ〉の読み方で明確に区分し、解説されている(出典 コトバンク)。
それによると、〈ヤク〉の現在一般に使われる意味としては<責任を持って当たる任務。「役所・役職・役人・役場・役目/大役・代役・同役>が該当するだろう。他に<主だった任務に就く人><劇や映画で、出演者の受け持ち>とかも書いてある。
対して〈エキ〉はどうか。よ〜く目を見開いて精読してほしい。抜き書きで引用させていただく。


役(エキ)

  1. 人民に割り当てるつらい仕事。労働や戦争などの務め。「役務/課役・苦役・軍役・現役・雑役・就役・退役・懲役・服役・兵役・労役」
  2. 戦争。「戦役」
  3. こき使う。「使役」 

(出典 コトバンク


じつは、〈ヤク〉の意味としても「割り当てられたつらい仕事」が載っているのだが、これは古くからの後者〈エキ〉の意味が、残存・逆浸潤したものと思われる。
「……だって、今の仕事、めっちゃつらいよ、〈ニエキ〉だよ〜」と、倉庫に着いたら30kgの米袋を400個以上、トラックからパレットに日に何度も、手荷役で、積み替えさせられているトラックドライバーなら、そう言いたくなるかも知れない。……分かる。そんな仕事が持続可能なはずはない。どこの若者がこんなドライバーになりたいと、進んで手を挙げるだろうか?

◆だからこそ!荷役(にやく)を荷役(にえき)にしてはならないのだ!!

大辞泉の解説をさらに見ていくと、この言葉に込められた歴史的な意味あいがよく分かる。〈エキ〉の説明にある「人民に割り当てるつらい仕事。労働や戦争などの務め」とは、一千数百年前、古代の大和朝廷前後の話ではないか。字は同じでも「役(え)」の読みの意味として、「古代、人民に割り当てられた肉体労働。夫役(ぶやく)。えだち。」とあるのだ。前回の本コラムは昭和史を100年さかのぼって物流軽視感の源流を辿ったが、どうも話は古代にまで届く模様である。荷役は典型的な肉体労働であるからだ。
「人民に肉体労働を強いて国家に奉仕させる」のは、ピラミッドの建設をはじめ、恐らく世界のどの国にも通底する、人類の悲しい歴史の一コマであるに違いない。「役(えき)」とは、強きものに隷属し搾取される民衆の、血と汗と涙がこびりついた言葉なのだ。「人権」に最高の価値を置く私たち21世紀の人類が、古代以来の人権軽視の所業を漫然と続けてよいはずがない。

◆再び、だからこそ!21世紀の荷役(にやく)が荷役(にえき)であってはならない!!

「そうであってはいけないんだ」という価値観・誓願を込めて、「荷役」を読むべきだと私は思う。これまで無自覚に・不用意に、荷役(にえき)と読んできた皆さん、分かってくださっただろうか? その心の奥底に、一千数百年らいの民の苦しみを、弱きもの・卑しい(と誤解された)仕事に就く人を、軽侮する、悲しい性向が潜んではいなかったか?……なあんてことはなく、ただの罪なきカン違いであったことを祈りたい。
だから物流を愛する私に、荷役を(にえき)と読むことは許せないのだ。先日、ある記者会見を取材していたら、立派なEC物流支援企業の社長さんがプレゼンで、「荷役(にえき)、荷役(にえき)」と連発していた。私は休憩時間に彼をつかまえ、上のように煩く指摘した。私の言い方も足りなかったかもしれないが、社長さんは心外、とばかりに憮然としていた。まあ仕方ない。
ただ前記の通り、現在の現実として、辛いつらい荷役(にえき)的作業が、今なおしぶとく、当たり前のように日本の物流現場には残されている。だから私は、「それでは持続可能じゃないよ!」「物流で働く人を大切にしない会社に、未来はないよ!」「3K物流を脱却しよう! 方法は一杯あるから」と叫び続けているのだ。事実上の荷役(にえき)を荷役(にやく)にするために。

◆ドライバーのつらい「荷役」作業実態スクープ!

トラックドライバーが荷役を担っている様子の写真

せっかくなので実態写真を上にご紹介しておく。これは講演旅行で訪れた山梨の倉庫会社の社長さんが、上記のような私の主張に感激・共感してくれ、「キクタさん、見てくださいよ、こんな状態なんですよ〜」と、この倉庫に大量のお米が届くとき、運送会社のドライバーさんが日々行う手荷役作業の様子を撮影し、送って下さった動画のスクショである。

むろん積むときも手作業だったろう。写真右のように荷台の奥の米袋は下ろすとき手が届かないので、荷台上での前出し作業も必要になる(日が当たって米が劣化しないようにと、あえて片側荷役をなさっている)。となると荷役回数は袋の数の420回ではなく、420×1.75=735回くらいに激増する。30kg×735回=22,050kg、つまり「22トン」分もの手荷役作業を、積み・下ろしするたびに、尊くもなさっておられるのだ。頭が下がる。

この物流を持続可能にするために、全ステークホルダーが歯を食いしばってパレット化を推進し、荷役(×にえき)を荷役(○にやく)にすべきだと思うのだが、どうだろうか?

(おしまい)

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